日本では、災害や環境問題をはじめとした多くの社会問題が存在します。これらの問題に対応するために寄附は不可欠ですが、被相続人が生前に関心を持っていた社会問題に取り組む団体等へ遺贈寄附を行うことは、自身の死後もその活動を支援できる有意義な方法と言えます。
この遺贈寄附には、主に「遺言による寄附」と「相続財産からの寄附」の2種類があることを前回のエクスプレスニュース№28でお伝えしましたが、今回は寄附者が相続人である「相続財産からの寄附」について取り上げます。
1.相続財産からの寄附
(1)相続財産からの寄附とは
「相続財産からの寄附」とは、被相続人からの寄附ではなく、口頭や遺言書の付言(法的効力なし)、手紙、エンディングノートへの記載などにより、相続後に相続財産を特定の団体へ寄附して欲しい旨を相続人へ伝え、その希望を尊重して相続人の行為として寄附を行います。
(2)相続税の取扱い
①原則
「遺言による寄附」は被相続人が寄附者のため、原則として相続税は課税されませんが、「相続財産からの寄附」は、被相続人から相続人へ一度相続され、その後に相続人から法人へ寄附したものと考えるため、原則として相続を受けた相続人に相続税が課税されます。
②相続税の非課税(租税特別措置法70条)
寄附先が、国・地方公共団体・一定の公益法人等(※1)の場合において、所定の手続きを行った上で相続税の申告期限までに寄附をした場合には、相続税は課税されません。
(※1)一定の公益法人等
1)独立行政法人 2)国立大学法人等 3)地方独立行政法人で一定の業務を主たる目的とするもの 4)公立大学法人 5)自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団、日本赤十字社 6)公益社団法人、公益財団法人 7)学校法人で一定のもの 8)社会福祉法人 9)更生保護法人 10)認定NPO法人 |
(※2)相続税の非課税(措置法70条)の対象外
1)寄附先:未認可のNPO法人、宗教法人、一般社団・財団法人 2)一定の公益法人等の設立のための寄附(相続税の非課税の適用を受けるには、寄附時点で既に設立していることが必要です)。 3)寄附をした日から2年以内に、一定の公益法人等に該当しなくなった場合や寄附財産が公益目的の事業の用に供されていない場合。 4)相続申告時に持戻しの対象となる財産(相続前7年以内の暦年贈与財産や、相続時精算課税贈与の適用を受けた財産)。 5)寄附を行うことにより、相続人等及びその親族等の相続税が不当に減少する場合(課税逃れ)。 |
(3)不動産・株式等(譲渡所得の対象財産)の寄附
①みなし譲渡課税
金銭での寄附の場合は譲渡税の負担は生じませんが、不動産・株式等を法人に寄附をした場合、相続人が寄附時の時価によりその不動産・株式等を法人に対して譲渡したものとみなされ、時価が取得費を上回る場合には、その上回る部分(含み益)を所得とみなして、相続人の確定申告により譲渡税が課税されます。
②譲渡税の計算
寄附時の時価1億円 - 取得費3,000万円 = 課税所得7,000万円
課税所得7,000万円 × 税率20.315%(※1) = 譲渡税14,220,500円
(※1)所得税・復興税・住民税
(※2)一定の要件を満たすことで、みなし譲渡課税が非課税となる制度(租税特別措置法40条)はありますが、要件が厳しく手続きが煩雑のためここでは割愛します。
(4)寄附金控除の適用(所得税)
寄附先が国や地方公共団体、一定の公益社団法人などの場合、相続人の確定申告により、以下の金額が寄附金控除の対象となります。
①金銭の寄附
寄附をした金額(総所得金額等の40%が限度)
②不動産・株式等(譲渡所得の対象財産)の寄附
寄附をした不動産・株式等の寄附時の時価1億円(総所得金額等の40%を限度とし、措置法40条の適用によりみなし譲渡課税が非課税の場合には、取得費3,000万円が対象)。
2.遺贈寄附の留意点
(1)遺留分への配慮(「遺言による寄附」の場合)
遺言により寄附財産が多額になるケースでは、民法上相続人に対して認められている遺留分を侵害する可能性があります。寄附先が相続人から遺留分侵害額請求を受けることがないよう、最低でも遺留分相当額は相続人へ相続する遺言書を残す配慮が必要です。また、自身が社会貢献に関心があることを生前から相続人へ伝えておくことも重要です。
(2)納税額への影響(「遺言による寄附」「相続財産からの寄附」共通)
「遺言による寄附」は、寄附先が法人の場合には、原則として寄附財産は相続財産に含まれません。また、「相続財産からの寄附」は、相続税の非課税(措置法70条)が適用される寄附先の場合には、寄附財産は相続税の課税対象から除かれます。従って、いずれも相続税の総額が軽減される効果があります。
一方で、寄附財産が譲渡所得の対象となる不動産・株式等の場合で含み益がある場合には、みなし譲渡課税の適用により譲渡税が課税されますので、相続税への影響(軽減効果)と併せて、譲渡税についても事前に検討が必要と言えます。
(担当:福田)